「プラスチックはリサイクルすれば環境にやさしい」。なんとなく、そう思っている方は多いはずです。テレビやニュースでも「リサイクル率が上がった」という話題を目にすれば、いい方向に進んでいるんだな、と安心する。私もかつてはそうでした。
化学メーカーの品質管理部門に10年いた藤原拓也と申します。樹脂の配合設計や成形の現場にいた人間です。退職後はフリーライターとして、製造業や素材技術、環境をテーマに記事を書いています。
現場にいた頃からずっと引っかかっていたことがあります。「リサイクル」という言葉がひとくくりにされすぎている。方法によってCO2の削減効果はまるで違うのに、ぜんぶまとめて「環境にいい」で片づけられてしまう。この記事では、実際の数字を使って、プラスチックリサイクルとCO2削減の関係をできるだけ正直に整理してみます。
目次
日本の廃プラスチック、実際にどれだけリサイクルされているのか
まず現状を押さえておきます。一般社団法人プラスチック循環利用協会が公表した2024年のマテリアルフロー図によると、日本の廃プラスチック総排出量は911万トン。有効利用率は89%です。
89%。かなり高い数字に見えます。ただし、この「有効利用」の中身を見ると、印象はだいぶ変わります。
「有効利用率89%」の内訳を見てみる
有効利用率89%の内訳はこうなっています。
| リサイクル手法 | 割合 |
|---|---|
| マテリアルリサイクル | 20% |
| ケミカルリサイクル | 3% |
| サーマルリサイクル | 67% |
残りの11%は未利用で、単純焼却が8%、埋立が4%。つまり日本で「リサイクル」されている廃プラスチックの大半は、サーマルリサイクルなんです。
サーマルリサイクルは「リサイクル」なのか
サーマルリサイクルとは、廃プラスチックを焼却する際に発生する熱エネルギーを回収して発電や温水供給などに利用する方法です。燃やしてエネルギーを取り出すわけですから、当然CO2は出ます。
ここで押さえておきたい事実がひとつ。OECD(経済協力開発機構)の基準では、サーマルリサイクルはリサイクルとして認められていません。国際基準で「リサイクル」と呼べるのはマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルだけ。この基準に照らすと、日本のリサイクル率は23%程度にとどまる計算になります。
89%と23%。同じ国の、同じデータから出てくる数字です。何を「リサイクル」と呼ぶかで、見える景色はここまで変わります。
ちなみに、OECD基準でのリサイクル率を国際比較するとドイツは約48.6%、オランダは約45%。日本の23%はかなり低い水準です。「リサイクル先進国」というイメージと実態には、かなりのギャップがあります。
リサイクル方法ごとのCO2削減効果を数字で比較する
では、それぞれのリサイクル方法でCO2はどの程度削減できるのか。具体的な数字を見ていきます。
マテリアルリサイクルのCO2削減効果
マテリアルリサイクルは、廃プラスチックを粉砕・洗浄・溶融して再生ペレットに加工し、新たなプラスチック製品の原料として再利用する方法です。
PP(ポリプロピレン)を例にとると、バージン樹脂を1トン製造する際のCO2排出量は約1,483kg。一方、再生ペレットの製造では、原油の採掘やナフサの分解といった上流工程を省略できるため、CO2排出量は大幅に少なくなります。
プラスチック循環利用協会のデータによると、日本の廃プラスチックの有効利用によるCO2削減効果は年間1,752万トン。約485万世帯分の家庭から排出されるCO2に相当する量です。
ケミカルリサイクルとサーマルリサイクルの位置づけ
3つの方法を簡単に整理すると、こうなります。
| 項目 | マテリアルリサイクル | ケミカルリサイクル | サーマルリサイクル |
|---|---|---|---|
| 処理方法 | 粉砕・溶融して再生ペレット化 | 化学的に分解してモノマーや油に戻す | 焼却時の熱エネルギーを回収 |
| CO2削減効果 | 高い | 中程度 | 低い |
| 品質 | 原料によっては劣化あり | バージン並みの品質も可能 | 製品として残らない |
| 日本での割合 | 20% | 3% | 67% |
| OECD基準 | リサイクルに該当 | リサイクルに該当 | 該当しない |
サーマルリサイクルのCO2削減効果が「低い」となっているのは、焼却時にCO2を排出するためです。廃プラスチック1トンを焼却すると約2,765kgのCO2が発生します。熱回収で化石燃料の使用を一部代替できるとはいえ、燃やしている時点でCO2は出ている。これが現実です。
再生ペレットとバージン樹脂、CO2排出量はどれくらい違うのか
マテリアルリサイクルで製造された再生ペレットは、バージン樹脂と比較してCO2排出量が少ないことが経済産業省のCFP(カーボンフットプリント)試行事業でも確認されています。
具体的な数字として、年間の樹脂使用量のうち10%を再生ペレットに置き換えるだけで、年間約1.78トンのCO2削減につながるという試算もあります。10%でこの効果ですから、置き換え率を上げればCO2削減量はさらに大きくなる。
再生ペレットの活用が広がらない理由のひとつに「品質への不安」があります。実際、異物混入や色ムラ、物性のバラつきといった問題はゼロではありません。ただ、近年は選別技術や溶融技術の向上により、用途によってはバージン樹脂とほぼ遜色ない品質の再生ペレットも製造されるようになっています。
コスト面でもメリットがあります。再生ペレットはバージン樹脂に比べて原材料費が20〜30%程度安い。自動車部品や建材、日用品など、最高レベルの物性を必要としない用途であれば、CO2削減とコスト削減を同時に実現できるわけです。欧州では再生材の使用を義務づける規制も進んでおり、環境対応と経済合理性の両立が現実的な選択肢になりつつあります。
「リサイクルすれば環境にいい」が成り立つ条件
ここまでの数字を見ると、「リサイクル=環境にいい」は条件付きの話だとわかります。では、どんな条件がそろえばリサイクルは本当に環境負荷を下げるのか。
LCA(ライフサイクルアセスメント)で見える全体像
環境負荷を正しく評価するために使われるのがLCA(ライフサイクルアセスメント)という手法です。プラスチック循環利用協会のLCA解説ページでは、「資源採取から廃棄にいたるまでの製品の全過程における環境負荷を科学的、定量的、客観的に総合評価する手法」と説明されています。
大事なのは「全過程」という部分。リサイクル工程だけを見て「CO2が減った」と言っても意味がありません。回収・運搬にかかるエネルギー、洗浄に使う水、選別で発生する残渣の処理まで含めて、トータルで新品を作るよりCO2が少なければ、はじめて「環境にいい」と言えます。
私が化学メーカーにいた頃、「リサイクルした方がかえってCO2が増えるケース」を何度か見ました。汚れがひどい廃プラを大量の水と熱で洗浄し、長距離輸送して、結局品質が合わなくて使えない。そうなると、バージン樹脂を作った方が環境負荷は低かった、ということが起こり得ます。LCAはそうした「見えにくいコスト」を可視化するための道具です。
リサイクルの環境負荷を左右する3つの要因
リサイクルが本当にCO2削減に貢献できるかどうかは、主に次の3つで決まります。
- 廃プラスチックの分別精度が高いかどうか。汚れや異物が多いと、洗浄に余計なエネルギーがかかり、再生ペレットの品質も落ちる
- 回収・運搬の距離が短いかどうか。遠方から運べば、その分トラックの燃料でCO2が増える
- リサイクル後の再生材が実際に製品として使われているかどうか。再生しても需要がなければ、工程にかけたエネルギーが無駄になる
つまり、リサイクルの「仕組み全体」がきちんと機能してはじめて、CO2削減効果が出る。リサイクルという行為そのものに魔法のような環境改善効果があるわけではないんです。
逆に言えば、この3つの条件を高いレベルで満たしているリサイクルは、確実にCO2を減らせます。製造工程で出る端材(PIR)のように、素材が明確で汚れも少ない廃プラスチックをマテリアルリサイクルに回すケースは、まさにその好例です。工場の近くにリサイクル拠点があれば輸送ロスも最小限で済みますし、再生ペレットの品質も安定しやすい。
信頼できるリサイクルを見分けるために
では、消費者や企業がリサイクルの質を見極めるには、何を基準にすればいいのか。
GRS認証という国際基準
ひとつの目安になるのがGRS認証(Global Recycled Standard)です。2008年にControl Union Certificationsが策定した国際基準で、リサイクル原材料のトレーサビリティ、化学物質管理、排水管理やエネルギー使用などの環境配慮、さらには労働環境まで含めた幅広い審査をクリアした事業者だけが取得できます。
認証を受けるには、製品にリサイクル原料が20%以上含まれていることが条件。製品にGRSロゴを付けて販売するなら、50%以上が必要です。日本でもこの認証を取得するリサイクル企業が少しずつ増えてきています。
リサイクル業者選びで押さえたいポイント
製造業の現場で廃プラスチックの処理を外注する際、業者選びで見ておきたいポイントは以下のとおりです。
- 対応できる樹脂の種類が幅広いか。廃プラは単一素材とは限らない
- 有価回収(廃棄物として費用を払うのではなく、資源として買い取ってもらう形)に対応しているか
- GRS認証など、第三者機関による客観的な認証を取得しているか
- 急な回収依頼や大量回収にも柔軟に対応できるか
たとえば群馬県太田市に拠点を置くリサイクル企業の場合、ABS、PP、HIPS、PS、PE、PC、PA、PMMA、POMなど50種類以上の樹脂を再生ペレット化する技術を持ち、GRS認証も取得しています。こうした企業の詳細は日本保利化成株式会社の紹介ページで確認できます。製造工程で出るPIR(ポストインダストリアルリサイクル)から、使用済み製品のPCR(ポストコンシューマーリサイクル)まで幅広く対応しているのが特徴です。
リサイクル業者を選ぶとき、「ちゃんと再生材として使ってもらえるのか」まで確認すること。これが、リサイクルを本当のCO2削減につなげるための第一歩になります。
まとめ
「リサイクルすれば環境にいい」は、半分正しくて半分は不十分な認識です。
日本の廃プラスチック有効利用率89%という数字の裏側には、67%を占めるサーマルリサイクルの存在があります。国際基準でリサイクルと認められるマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの合計は23%程度。再生ペレットはバージン樹脂よりCO2排出量が少ないことは確かですが、分別精度、運搬距離、再生材の需要という条件がそろわなければ、その効果は薄まります。
大事なのは、「リサイクルしているから大丈夫」で思考を止めないこと。どんな方法で、どこまで資源として活かされているのかを知ることが、CO2削減の実態を正しくとらえる出発点です。
マテリアルリサイクルの割合を現在の20%から引き上げていくこと、そしてケミカルリサイクルの技術と経済性を向上させること。日本がサーマルリサイクル依存から脱するには、この2つが鍵になります。技術は着実に進歩しています。あとは、消費者も企業もリサイクルの「中身」に関心を持つこと。プラスチックを使う側も、処理する側も、数字を見て判断する習慣を持ちたい。元・現場の人間として、そう強く思っています。