小学2年生の下の子が、買ったばかりの熊鈴をリュックにつけて「これでクマは来ないんでしょ」と言いました。
その日に歩いた道には、沢沿いの区間がありました。
水音に消されて、すぐ前を歩く子の鈴がほとんど聞こえません。
群馬県高崎市に住む川添真由です。
旅行会社で国内ツアーの企画を12年担当し、今は小学5年生と2年生の子どもを連れて山を歩いています。
クマの専門家ではなく、登山の資格も持っていません。
得意なのは、交通と宿と雨の日の代案まで含めた旅の段取りです。
この記事では、熊鈴に何を足すかと、出発前にどの順番で熊情報を調べるかをまとめました。
数字や案内は環境省と各県の資料で確かめたもので、2026年11月初めの時点の内容です。
これから秋の山旅を計画する方も、来年の紅葉に向けて準備したい方も、そのまま手順として使えます。
目次
熊鈴は持っていく、ただし音が届きにくい場面がある
環境省が2026年8月に公表した国立公園におけるクマ被害対策の手引書は、話し声やクマ鈴で人の接近を知らせれば、偶発的な遭遇を防げると説明しています。
熊鈴は、持っていく価値のある道具です。
同じ手引書は、クマが音に気付きにくい場面として、沢沿いと、雨や強風などの荒天時を挙げています。
こうした場面では、複数の方法で音を出す工夫が必要だとも書かれています。
わが家が沢沿いで聞いた頼りない鈴の音は、まさにこの場面でした。
沢は他人事ではありません。
群馬県によると、2026年8月13日に起きた県内で今年度2例目の人身被害の現場は、みどり市の山林内の渓流でした。
鈴に足すものは、手引書と環境省の国立公園利用者向けページ、群馬県の注意事項を合わせると次のとおりです。
- 手をたたく、声を出すなど、鈴以外の音も出す
- 特に登山では、複数人で離れずに歩く
- 見通しの悪い場所では、周りの物音を気にしながら通る
- 早朝や夕方の薄暗い時間帯を避ける
- ゴミは必ず持ち帰る
- 新しい糞や足跡を見つけたら、すぐに引き返す
- クマ撃退スプレーを用意する
手引書には、見通しの悪い場所はなるべく立ち止まらずに通り過ぎ、走ったり自転車で通ったりするのは控えるともあります。
遭遇の恐れが高い場所は、可能であれば迂回します。
環境省のページは、下山まで対策を忘れないようにとも呼びかけています。
帰り道の子どもは疲れて口数が減り、大人も気が緩むので、わが家は下りに入るときに声をかけ直します。
頭の上にも目を配ります。
環境省のレポートには、下山しようとしたところへ木の上から子グマが落ちてきて、その子グマに襲われ重症を負った事例が載っています。
周りを見るときは、左右だけでなく上も見るよう勧められています。
おやつの包み紙や、お弁当の残りにも気を配ります。
持ち帰る袋を大人のザックに一つ決めておくと、子どもがポケットに入れたまま忘れることも減りました。
スプレーは旅程に関わる道具です。
環境省のページによると、航空機には持ち込めず、預けることもできません。
飛行機で行く山旅なら、到着後に買える店や借りられる場所を、宿の予約と一緒に調べておきます。
手引書はスプレーを、本当に襲われそうなときの最終手段と位置づけています。
とっさに噴射するのは簡単ではないとも書かれているので、持っているだけで安心せず、使い方を出発前に確認します。
秋の熊情報は去年の感覚で判断しない
環境省の速報値では、令和7年度の全国の出没情報は50,801件でした(北海道は件数を公表していないため除きます)。
このうち10月が15,998件、11月が10,338件で、この2か月だけで全体の半分を超えます。
人身被害は216件238人、亡くなった方は13人で、出没情報件数、被害者数、死亡者数のいずれも過去最多でした。
ただ、毎年同じ波が来るわけではありません。
群馬県の公表値で10月の件数を比べると、令和6年度は27件、令和7年度は519件です。
同じ県の同じ月で、約19倍の開きがあります。
開きを読む手がかりが、ブナやミズナラなどの木の実の出来です。
環境省は、秋の出没件数は木の実の豊凶に大きく左右されると説明しています。
2026年10月29日の速報では、北海道、栃木、群馬、滋賀、京都、兵庫、奈良、鳥取、山口の各道府県が注意を呼びかけていました。
地域の差も出ています。
群馬県はブナが並作、ミズナラとコナラが不作です。
長野県と新潟県は、ブナが豊作、ミズナラとコナラが並作でした。
ただし環境省は、実りが良くても地域によって差があり、個体によっては出没する可能性があると補足しています。
環境省の「クマによる人身被害の分析レポート」は、大量出没の年の秋には人の生活圏で被害の割合が高くなると整理しています。
ここでいう生活圏には、市街地や人家の周辺、道路、農地が含まれます。
家族旅行なら、登山口へ向かう道路や宿の周辺まで、確かめる範囲に入れておきたいところです。
もちろん山の中も別の話にはなりません。
共同通信によると、石原環境相は2026年7月の会見で、国立公園で人身被害が相次いでいるとして、登山者に出没情報の確認などを求めました。
環境省の説明では、4月以降、秩父多摩甲斐などの国立公園で登山客らが襲われています。
奥多摩や奥秩父は東京近郊の家族連れにも身近な山域なので、低い山でも調べる手間は省きません。
全国の速報値には時間差もあります。
11月初めの時点で公表されているのは、出没情報が8月分まで、人身被害が9月分までです(今年度は9月末で64件68人)。
都道府県ごとに集計方法も違うため、県どうしの比較には向きません。
全国の数字は流れをつかむために使い、コースの判断には次に紹介する地元の情報を使います。
熊情報はこの順番で調べる
最初に環境省のリンク集を開く
入口は環境省の国民向けクマ情報ページです。
都道府県が提供しているクマ出没情報へのリンクが、地方別に並んでいます。
検索で古いページに当たることを考えると、ここから入るのが確実です。
スマートフォンでは、リンク先に出没情報が直接表示されないことがあります。
たとえば栃木県は、メニューから「アニマル」を選ぶよう案内されています。
行き先ごとの見る先を確かめる
環境省のページで確かめた見る先を、関東周辺の山域で表にしました。
| 山域 | 主な見る先 |
|---|---|
| 奥多摩 | 東京都「TOKYOくまっぷ」 |
| 奥秩父 | 埼玉県ツキノワグマ出没マップ |
| 八ヶ岳 | 長野県ツキノワグマ情報マップ、山梨県ツキノワグマ出没マップ |
| 尾瀬 | 尾瀬保護財団のホームページ |
| 日光・那須 | 栃木県警察公開マップ、福島県の目撃情報 |
| 谷川岳 | 群馬県クマ出没マップ、新潟県のクマ出没マップ |
| 妙高 | 新潟県のクマ出没マップ、長野県ツキノワグマ情報マップ |
県境の山は、登る側だけでなく両側を見ます。
下山口や宿が隣の県になる旅程は、企画の仕事でもよく見落とされていました。
印がない場所を安全と読まない
長野県のマップのページには、県内の森林は全てクマの生息域で、目撃がない地域でもクマと出会う可能性があると書かれています。
群馬県も、遭遇は突発的に起こることが多く予測は困難だと説明しています。
マップは、届いた情報を載せたものです。
私がマップで見るのは次の点です。
- 目撃の日付が、この数日から数週間に集まっていないか
- 登山口、下山口、駐車場、宿の近くに印がないか
- 同じ場所で続いていないか
- 親子グマや子グマの情報がないか
群馬県は、子グマの近くには母グマが潜んでいると注意を呼びかけています。
子どもが喜びそうな話でも、近づかない理由として先に伝えておきます。
最新の状況は電話で聞く
長野県のツキノワグマの案内ページには、最新の目撃情報は市町村や観光案内所、宿泊施設等へ直接問い合わせるよう書かれています。
環境省も、ビジターセンターに立ち寄って最新の出没情報を確認するよう勧めています。
同じ長野県のページでは、警報や注意報の発出状況のほか、目撃件数の資料も毎週金曜日15時に更新する予定と案内されています。
2026年度は5月から7月にかけて、松本に注意報、北アルプスと木曽に警報が出ていました。
県全体ではなく地域ごとに出るので、行き先の地域名で確認します。
ツアーの下見でも、最後は現地への電話で確かめていました。
聞くことを決めておけば、数分で終わります。
わが家は次のように聞いています。
○月○日に、小学生の子ども2人と○○登山口から○○まで歩く予定です。
最近、この道や登山口の近くでクマの目撃はありましたか。
通行止めや、避けたほうがよい区間があれば教えてください。
旅程は3回に分けて確かめる
行き先の候補を探すときは、個人の登山記事も読みます。
浜西慎一(濱西慎一)さんのトレッキング記事をまとめたnoteもその一つです。
紅葉のコースを紹介する記事では、妙高山について、熊鈴やラジオで音を出すこと、早朝と夕方に注意すること、単独行動を避けることに触れています。
コース紹介の段階でクマの注意点が目に入ると、計画の早いうちに調べる項目へ加えられます。
候補が決まったら、確認は次の3回に分けます。
これはわが家のやり方で、公的な基準ではありません。
| 時期 | 見るもの | 決めること |
|---|---|---|
| 予約前 | 木の実の豊凶調査、前年同月の件数、県の警報や注意報 | 行き先の候補、宿のキャンセル条件 |
| 3日前 | 県のマップ、市町村のお知らせ、宿や観光案内所への電話 | 歩くコースと代案 |
| 前日から当日朝 | 最新のマップ、ビジターセンター、登山口の掲示 | 予定どおり行くか、代案へ切り替えるか |
切り替えの目安は、コース周辺で数日以内に目撃があったとき、通行止めが出たとき、現地で勧められなかったときです。
子連れの場合は迷った時点で代案にします。
麓の資料館や温泉へ行き先を変えても、旅行そのものは成り立ちます。
代案は、当日の朝に探すと慌てます。
わが家では山を決めたときに、雨の日用の行き先を一つ決め、クマの情報で中止する場合も同じ場所へ行くことにしています。
宿を予約するときは、キャンセル料がいつからかかるかも控えておきます。
いつまでなら負担なしで変えられるかが分かっていると、「せっかく予約したから」という理由で無理をせずに済みます。
環境省のレポートには、近くの知人から「クマが出ているので散歩は危ない」と声をかけられたのに、朝6時ごろから散歩に出て、山林際の道路で襲われた事例が載っています。
レポートは、出会う可能性が大きいと考えられるときは外出を控え、コースを変えるよう勧めています。
現地で聞いた話は、予定より優先します。
時間帯も旅程で調整できます。
同じレポートによると、令和7年度の被害は明け方と日の入り前後に多く発生していました。
わが家は、歩き始めは十分明るくなってから、下山は日の入りより大幅に早い時刻に設定します。
宿に泊まる日は、子どもが喜ぶ早朝の散歩も、周辺の情報を聞いてから決めています。
子どもと出発前に決めておくこと
文部科学省と環境省の保護者向けリーフレットは登下校を想定した内容ですが、山でも使える部分が多くあります。
そこに手引書の内容を足して、わが家では次のことを決めています。
- ひとりで先に行かず、大人の見える範囲を歩く
- 見通しの悪い道では、話しながら手もたたく
- 足あとやフン、爪あとを見つけたら、触らずに大人へ知らせて離れる
- 子グマがいても近づかない
- クマを見たら大声を出さず、クマを見ながらゆっくり離れる
- 背中を見せて走らない
リーフレットによると、クマは時速40〜60km程度で走れます。
走って逃げ切れないことは、数字で話すと子どもにも伝わりました。
迷いやすいのが声の使い分けです。
歩くときは声を出すよう教えながら、クマを見たら大声はいけないと教えることになります。
わが家は「見えないときは声を出す、見えたら静かに離れる」と短く決めて、玄関先で何度か練習しました。
長野県のページには子ども向けの動画もあるので、出発前に一緒に見るのも手です。
スプレーは大人が持ち、すぐに取り出せる位置につけます。
それでも攻撃を避けられないときは、うつ伏せになって首の後ろに手を組み、首と顔、お腹を守ると環境省の手引書は説明しています。
子どもにも一度、形だけ見せておきました。
まとめ
熊鈴は持っていきます。
そのうえで、沢沿いや雨風の日には声や手をたたく音を足し、家族で離れずに歩きます。
熊情報は、環境省のリンク集から県のマップへ進み、最後に宿や観光案内所へ電話する順番で調べます。
マップに印がなくても安全とは読まず、予約前、3日前、前日から当日朝の3回に分けて確かめると、無理のない判断がしやすくなります。
うちの下の子の鈴は、今もリュックについています。
変わったのは、沢の音が大きくなると、子どものほうから手をたたき始めたことです。
代案を用意して出かければ、途中で行き先を変える日があっても、家族の旅はちゃんと楽しい一日になります。